「今日はどんな感じにする？」
おいおい、マジかよ。馴れ馴れしい上になんでもできるかのような言い草。
お前は一度だって俺を満足させたことはねえぞ。
「お任せで。派手めがいいです」
「うーん。じゃあ、サイドはツーブロックっぽく少し刈り上げて、前髪は長めの残しておこうか」
無難な髪型じゃねえか！
一度だって派手すぎて文句を言ったことはない。
プロならもっと刺激的な提案をしろ。
「サッカー雑誌読んでるけど、最近おすすめの選手とかいる？」
友達でもないおっさんと話したいことなんかねえ。
そもそも、いかにもおしゃれな人が集まる場所ですよっていう空間デザインからして嫌なんだ。
せめて無言でいさせろ。
「〇〇って選手がテクニックもあるけど、あたりも強くて、最近いいかもしれないです」
「へー、そうなんだ」
興味ないんかい！じゃあ、聞くな！
「かんせ～い。後ろはこんな感じ。どう？」
普通だよ。こんなつまんねえ髪型に感想もなにもあるか。
家に帰ってから、ワックスでどう派手にするか考えなきゃならねえよ。
「はい。大丈夫です」
「ありがとうございました。また今度～」
あれから、十数年。
自分で髪を切っている。
バリカンもすきばさみも持っている。
いつだって心は岩肌。
荒れ果てろ！
※店員さんにひどい態度をとったことはありません。謙虚に生きています。
CT事業部東京制作部／M・T